第1話|倒れる前夜、俺はなにも知らなかった

第1話|倒れる前夜、俺はなにも知らなかった 体験談

その数日前から、頭痛が続いていた。

といっても、仕事で疲れた時によくある、あの感じだ。市販の薬を飲んで、マッサージに行って、なんとかごまかしていた。それ以外はいつも通り。34歳、独身、一人暮らし。何も変わらない普通の平日だった。

いつものように仕事から帰り、飯を食って、ぼーっとテレビを見ていた。

頭痛は相変わらずだった。むしろ、頭痛よりも気になることが出てきていた。首から頭にかけて、変な重さがある。頭痛とは少し違う、鈍くて嫌な感覚だった。

その時、ふと思い出したことがあった。

10年前、親父がクモ膜下出血で倒れる直前、「首が重い」と言っていた。あの時と、全く同じだった。

少しだけ、不安になった。

でも、「まあ大丈夫だろう」と思った。34歳だし。疲れてるだけだろうと。

今夜はゆっくり休んで、明日の朝一で病院に行こう。

そう決めて、風呂を沸かした。脱衣所で服を脱いだ、その瞬間だった。


ドアを開けようとした。

体がフラフラして、うまくコントロールできない。右半身からサーッと血の気が引いていく。首筋から頭がズキズキと痛む。

数日前からの頭痛が、全部「これ」の前兆だったと、その瞬間すぐにわかった。

服を着直して、リビングまで這いずりながら出ていく。意識が遠のいていくのがわかった。

「このまま誰にも気づかれずに死んでいくのか…」

この時ほど、一人暮らしを後悔したことはなかった。

深い闇に落ちていきそうになりながら、色々なことが頭をよぎった。

「…最近ヤったのいつだっけ?」

「あのタンタン麺、食いたいな…」

死ぬかもしれない瞬間に、最初に考えたのが「女」と「飯」だった。我ながら、どうかしてると思う。でもそれが現実だった。

そして次に思った。

「俺にはまだまだやり残したことがたくさんある」

落ちていきそうになりながら、必死に携帯を握り締めて、119をダイヤルした。

声が出ない。体が言うことを聞かない。それでも、叫ぶような勢いで救急車の要請をした。

電話口のオペレーターに住所を伝えながら、ふと思った。

一人暮らしじゃなかったら、今頃誰かが気づいてくれていたのかな。


10分もしないうちに、遠くからサイレンが近づいてきた。

ウチの前で止まった。

インターホンが鳴った。

あ、助かった。

そう思ったら、急に意識が遠のいていった。

著者:のぞむ(脳梗塞・心不全・糖尿病の当事者)
自分の闘病経験が、誰かの「まさか自分が」を防ぐヒントになれば、このブログを書く意味があると思っています。
※この記事は当事者の体験と公開情報をもとに作成しています。医療上の判断は必ず医師にご相談ください。

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