第3話|ICUに放り込まれた話

第3話|ICUに放り込まれた話 体験談

検査から一晩が経ち、朝になっていた。

体調は最悪だった。

唾液が飲み込めないまま肺に少しずつ流れ込んでいたらしく、肺炎になっていた。高熱が出ていた。脳血管のダメージもある。ということで、ICU(集中治療室)で1週間ほど経過観察することになった。

ICU。テレビドラマで見るやつだ。まさか自分が入ることになるとは思っていなかった。


ICUに入る前に、一つだけ気になることがあった。

携帯が使えなくなる。

ICUは精密機械がたくさんあるので、電子機器の持ち込みが全面禁止だという。1週間、携帯なしで過ごすことになる。

意識が朦朧とした状態のまま、俺は何をしたか。

直近から1週間先の予定、全てにキャンセルのメールを送っていた。

後から送信履歴を見て知った。ほぼ無意識でやっていたらしい。34歳WEB系会社員、瀕死の状態でも仕事のメールだけは送る。我ながら笑えない話だ。


ICUに入ってからの記憶は、ほとんどない。

唾液を吐き出すか垂れ流すか、自分で口に吸引の管を突っ込んで必死に吸い取るか。体中あちこちに管や点滴が刺され、身動きが取れない。数時間おきに検査や処置のために起こされ、まともに眠れない。

とにかく、ロクな記憶がない。

何をしていたのかも覚えていない。

ただ一つ、今でも鮮明に覚えていることがある。

ICUに入って2〜3日が経ったある時、思い切って唾を飲み込もうとしてみた。

今まで自分の意志では動かなかった喉が、少しだけ開いた。

少量だったが、唾液を飲み込めた。

たったそれだけのことで、涙が出そうになった。喉が動いた。声が少しずつ出せるようになった。熱も下がり始めた。全てが、ようやくいい方向に動き始めた。

当初1週間の予定だったICUを、3日ほどで出ることができた。


一般病棟に戻り、11月中の回復は驚くほど早かった。

何より嬉しかったのは、食事の許可が出たことだ。

1日3食ゼリーから始まり、ペースト食、お粥、通常食と順調に解除されていった。入院してから初めてまともに食べ物を口にした時の感覚は、今でも忘れられない。

会話もできるようになり、お見舞いに来てくれる人も増えてきた。リハビリの先生がベッドまで来てくれて、少しずつリハビリも始まった。頭痛で眠れない夜もあったが、それも日に日に減っていった。体中に刺さっていた点滴も、一本また一本と抜けていった。

寝たきりだったが、車椅子での移動も許可された。

売店まで車椅子で行けるようになった日、何を買ったか。

アイスだ。

スーパーカップ 超バニラ。無性に食べたくて仕方なかったやつ。

一口食べて、思った。

生きてて良かった。

大げさじゃなく、本当にそう思った。


こうして怒涛の11月が、足早に過ぎていった。

入院からまだ2週間も経っていなかった。

著者:のぞむ(脳梗塞・心不全・糖尿病の当事者)
自分の闘病経験が、誰かの「まさか自分が」を防ぐヒントになれば、このブログを書く意味があると思っています。
※この記事は当事者の体験と公開情報をもとに作成しています。医療上の判断は必ず医師にご相談ください。

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